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アトピー性皮膚炎について

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、「湿疹」と「かゆみ」を主な症状として、寛解(良くなったり)と増悪(悪くなったり)を繰り返す皮膚の病気です。

かつては乳幼児期特有の病気で、「2歳で半分の患者さんが治り、10歳でさらに半分が治り、18~20歳でほとんど治る」といわれていましたが、その年齢になっても治らない、一度治っても成人してから再発する人もいる、というのが現状です。

現在、20歳以下のおよそ10人に1人がアトピー性皮膚炎であると推測されています。

湿疹の特徴として

・赤みがある

・じゅくじゅくして引っかくと液体が出てくる

・ささくれだって皮がむける

・長引くとごわごわ硬くなって盛り上がる

・左右対称にできることが多い

・おでこ、目のまわり、口のまわり、耳のまわり、首、わき、手足の関節の内側などに出やすい

などが挙げられます。

なりやすい人

「アレルギーを起こしやすい体質の人」や「皮膚のバリア機能が弱い人」に多く見られます。

アレルギーを起こしやすい体質の人

人の体には体の中に入った特定の異物を除く、免疫という仕組みがあります。これは異物(抗原:アレルゲン)に対して反応する抗体(免疫グロブリンE:IgEというタンパク質)を作って、体から除く仕組みですが、この免疫が異常に強く起こることをアレルギー反応といいます。

アレルギー反応を起こしやすい体質のことをアトピー素因があるといいます。

家族にアトピー性皮膚炎や喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーなどの人がいる場合、その体質を受け継いでアレルギーを起こしやすくなることあります。また本人がそういう病気をわずらったことがある場合も、アレルギーを起こしやすい体質と考えられます。

ただし、アトピー性皮膚炎だと必ずこの体質であるというわけではなく、また、アトピー素因があってもアトピー性皮膚炎にならない人もいます。

皮膚のバリア機能が弱い人

健康な皮膚では、皮膚の表面の角質層に十分な量の保湿成分や油分を持っていてバリアの役割を担っており、外からの物質の侵入や水分の蒸発による皮膚の乾燥を防いでいます。

アトピー性皮膚炎では、これらの「皮膚のバリア機能」が弱まっているため、外からの異物が容易に皮膚の中まで入りこみやすい状態になっています。

アトピー性皮膚炎の人が薬や化粧品、金属などにかぶれやすいのはこのためです。

少しの刺激でかゆみが出るので、そこを掻いてしまい、掻くことでバリア機能がさらに破壊され、刺激物がますます侵入しやすくなり、炎症を起こしてさらにかゆみがひどくなる、という悪循環に陥りやすくなります。

バリア機能が弱まると汗などの刺激にも弱くなります。

悪化の原因

炎症は、本来は体の外から侵入してきた敵と戦って退治する免疫反応によって起こるもので、細菌やウイルスなどから身を守るために必須のものです。

しかし、アトピー性皮膚炎ではこの免疫が過剰に反応し、本来退治する必要のないものに対しても不必要に炎症が起きてしまうことが病気の根本にあります。

免疫が過剰に反応する理由としては、もともとのアレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)や皮膚のバリア機能低下も大きく関係しますが、他に、長期間皮膚に加わる強い刺激やストレス、疲労なども免疫を不安定にしてアトピー性皮膚炎を悪化させることがあります。

皮膚への刺激

ダニ、カビ、ほこり(ハウスダスト)など皮膚への物理的な刺激(引っかく、こするなど)化学物質(石鹸、化粧品、金属、消毒薬など)汗、皮膚の汚れ、紫外線など

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の原因ははっきりと分かっていませんが、遺伝による体質に、環境などが強く関係して発病すると考えられます。

それぞれにはアレルギーに関係するものと、それ以外のものがあります。

アレルギーに関係するもの

2歳までの場合、アレルギー的因子(アレルゲン)として代表的なものは、「食物」と「ダニ」です。

食物で代表的なものは、卵、牛乳、小麦や大豆です。

3歳以降は食物の影響はほとんどなくなり、ダニや花粉の影響が大きくなると考えられます。

アレルギー以外のもの

繰り返し掻くことによる刺激、汗の刺激、乾燥、化学物質の刺激、ストレスなどの心理的な原因などが、アトピー性皮膚炎の発病や悪化に関係しています。

東洋医学的な治療

痒みや炎症は中医学では「湿熱」や「血熱」と考えます。

ジュクジュクしている皮膚は「湿熱」とみます。

余分な水分と熱が身体に溜まっているタイプです。

皮膚症状は重く、浸出液・強いかゆみがあります。熱感、紅斑、丘疹、かさぶたがある場合があり、下肢や四肢の内側に症状が出やすいのが特徴です。

身体に余分な水分と熱が溜まっているので皮膚症状以外に、食欲不振、倦怠感、四肢の怠さ、口の中が粘る、軟便、下利しやすい、痰がからむ、尿少、下肢のむくみ症状がある場合があります。

「湿熱」の治療には清熱利湿(熱を除き水分代謝をよくする)作用のある漢方薬を用います。

 

カサカサして夜中に痒みが出る皮膚は「血熱」とみます。

熱が身体の中にこもっているタイプです。

皮膚の炎症が強く、真っ赤で全身に広がります。肌が乾燥し、灼熱感が強いです。血痕、血痂が多く、掻くと出血し、浸出液が出ます。

熱が身体の中にこもっているので皮膚症状以外に、ほてり、顔が赤い、身体の熱感が強い、口が渇く、便秘、不眠、夢が多いなどの症状がある場合があります。

「血熱」の治療には清熱涼血(熱を取り去る)作用のある漢方薬を用います。

 

まずは痒みや炎症を抑えることを第一にします。

そして第二段階として皮膚を丈夫にしていくことを考えます。

アトピー性皮膚炎の皮膚は基本的に乾燥しています。

皮膚表面の外壁が弱く、刺激や異物を受けやすい状態で、皮膚のカサカサ、皮がむける、皮膚が厚くなるなどの症状は中医学では「血虚」や「血瘀」と考えます。

 

乾燥が強く粉がふいたような状態で時に激しい痒みがでる皮膚は「血虚」とみます。

血(身体全体の皮膚を潤す働き)が不足して肌が乾燥したタイプです。

掻いても組織液は出にくいです。ひび割れ、肥厚、限局性丘疹などがある場合があります。乾燥している環境下で症状が悪化します。

血が不足しているので皮膚症状以外に、唇や爪の色が淡白、めまい、立ちくらみ、不眠、爪と髪につやがない、女性の場合は生理が遅れるなどの症状がある場合があります。

「血虚」の治療には養血潤皮(不足している血を補い、皮膚を潤す治療)作用のある漢方薬を用い、皮膚を丈夫にしていきます。

 

ところどころ赤黒くなり肥厚していて、乾燥が強く、落屑もある皮膚は「血瘀」とみます。

血流が悪いタイプです。

血流が悪いので皮膚症状以外に、のどが渇く(あまり飲みたがらない)、顔色がどす黒い、便秘、女性の場合、月経血は紫暗色で血塊を含むなどの症状がある場合があります。

「血瘀」の治療には活血化瘀(血の流れを良くする治療)作用のある漢方薬を用い、皮膚を丈夫にしていきます。

 

第一段階の治療で皮膚の赤み・痒みが落ち着いたとしても、症状を繰り返さないためにはこのような第二段階の治療をしっかり行っていく事がとても重要となります。

アトピー性皮膚炎は現象的には皮膚と皮下組織の病変

中医学的には「肺」に属する皮毛と、「脾」に属する肌肉の病変であるので、アトピー性皮膚炎は「肺脾病」と考えることが出来ます。

アトピー性皮膚炎が大気汚染の状況や空調設備の環境および食生活の習慣や環境などと密接な関係があることにも納得がいきます。

 

普段から「肺」と「脾」をいたわる生活を心がけることが大切です。

「肺」は呼吸に関わり、できるだけきれいな空気が吸える環境を整えるようにし、煙草を吸う人は止めるか本数を減らす努力も必要です。

「脾」は消化を主るので、消化機能に負担をかけない食事を心がけましょう。例えば肉類や油類の過剰摂取は避けましょう。

香辛料の強すぎる食事も体内に熱を発生させてしまいアトピーを悪化させます。

また「脾」は甘いものの過剰摂取に弱いです。甘く脂肪分の多い生クリームを使ったスイーツなどは特に避けたいものです。

西洋医学的な治療

外用薬

アトピー性皮膚炎治療の外用薬としては、ステロイドの塗り薬とステロイド以外の免疫抑制薬の塗り薬(以下、免疫抑制外用薬)があります。

ステロイドの塗り薬

人間の体の中では、副腎皮質ステロイドホルモンというホルモンが分泌されさまざまな働きをしています。

働きの一つに、免疫やアレルギーに関係する細胞の働きを抑えたり、炎症を起こす物質がつくり出されないようにしたりして、炎症や免疫の働きを抑える働きがあります。

ステロイドの塗り薬は、この副腎皮質ステロイドホルモンの化学構造をもとに作られた薬で、炎症を強く抑える作用をもっています。

ステロイドの塗り薬には、「最強」「とても強い」「強い」「弱め(ミディアム)」「弱い」という5段階のランクがあり、それぞれの皮膚の症状の種類や重症度、炎症が起きている場所、患者さんの年齢などを考えた上で、適切なランクの薬が選択されます。顔面は吸収が良いので原則として「弱め(ミディアム)」クラス以下を使用することになっています。

免疫抑制外用薬

免疫抑制外用薬は、過剰な免疫反応を特異的に抑えるため、皮膚を傷める可能性がほとんどないことが特徴です。

ステロイドでよくみられる皮膚を薄くするなどの副作用もほとんどないため、ステロイドの副作用が出やすい部位(例:皮膚の薄い顔、首、肘(ひじ)の内側など)によく使われます。

現在、免疫抑制外用薬には大人用・子ども用の2種類あり、大人用の効果はステロイドの塗り薬の「強い」クラス、子ども用は「弱め(ミディアム)」~「弱い」クラスと同じ程度です。

補助的に用いる飲み薬

かゆみを抑えるために、眠気の少ない抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を補助的に内服したり、他の治療でなかなか良くならない重症の成人患者さんは、ステロイド薬の飲み薬やシクロスポリンという免疫抑制薬の飲み薬を飲んだりすることがあります。

2017年1月6日

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